世界文学としての方丈記
『方丈記』(1212)は、成立して以来800年以上にわたって様々な読者層によって、色々な形で今まで読まれてきた。この作品は明治期に学校のシラバスに含まれ、現在ではほとんどの日本人が何らかの形で本作品に触れたことはあると言って過言ではない。こうしたいわば国民的な文学作品に対して、早い時期から研究者も注目し、この100年以上にわたって数多くの研究成果も残してきた。他方、こうした国内ではキャノン的な存在を維持してきた『方丈記』は、いかに海外に紹介されどのように流通したのか、また海外の読者にいかなる形で評価されたのかについてさほど研究はあるまい。『方丈記』は日本文学作品の中でも海外の読者にいち早く注目され、世界の様々な地域や言語で読まれたにもかかわらず、これまでこの作品の国際的な展開にあまり関心がもたれることはなかった。そこで本書は、19世紀末・20世紀初頭の非対称的な世界秩序のなか、日本では長らく仏教文学、あるいは災害文学として読まれたこの作品が、なぜどのように西洋のロマン主義的な作品に変容したのか、夏目漱石をはじめ、日本と欧米からの事例を取り上げながら、そのナラティブの変遷過程を明らかにすることを目指している。本書は翻訳論や世界文学論を応用しつつ、これまでに「国文学」の枠組みで閉ざされてきた『方丈記』を「世界文学」として捉え直す初めての試みである。
出版社
法蔵館
ISBN
9784831877567
出版年
1 Jan 2022 – 30 Nov 2022
専門
人文科学
テーマ
文学
地域
日本