『和魂外資:外資系の投資と企業史および特殊会社の発達史、1859-2018』

『和魂外資:外資系の投資と企業史および特殊会社の発達史、1859-2018』
  本書は、平成31(2019)年1月31日に刀水書房から刊行された私の単著である。ここでは、安政6(1859)年における日本の世界各国との外交関係の樹立以降、平成30(2018)年における「明治150年」の記念にいたるまでの159年間にわたってみられた日本における外国資本の導入および特殊会社の発達と、その日本資本主義の成長において果たした役割が、国際金融の歴史的枠組みのなかで考察されており、3部から構成される研究書となっている。

 本書の「まえがき:苦境にある日本」においては、開国から今日にいたるまでの和魂洋才の概念に関連して推進された先端技術や特許権の取得による外資導入および移転について検討する。それゆえに、20世紀以降には、日本資本主義にとって揚げられた標語は、和魂洋才というよりも、むしろ「和魂外資」といった方が適切であるという観点で論じて行くこととする。

 第I部「直接投資と合弁事業史、1859-1945」では、日本資本主義の発展にとって、安政6(1859)年7月1日から昭和14(1939)年9月までの80年間において、米国、英国、独国など各国の会社、資本家、投資家、企業経営者たちが、日本の商工業に大量の資本を投資したことを確認する。また、そこにおいて投資された金額の大小を一瞥すると、直接投資および合弁事業に投下された金額は、間接的な公債、市債、社債による外資導入と比べて、確かに微少であったが、それにもかかわらず、日本経済の成長および発展にとって、金額だけでは表現することができない多大な影響を与えたという点で重要な役割を演じていることを見逃すわけには行かない。さらに、特許権の導入という形での主導的技術の移転は、電機産業、石油精製事業、兵器産業、ガラス産業、アルミ産業などの先端分野に圧倒的に集中していたことを忘れるわけに行かない。そのうえ、投資された金額の大小は、自動車、大砲、計算機、エレベーター、蓄音器、また、両切り紙巻きタバコ、マッチ、石鹸、タングステン電球などに必要とされたそれぞれの技術導入の社会経済的な重要さを表わすものではないのである。
 なお、この間において外国資本の直接投資あるいは日本の資本との合弁事業という形をとって行なわれた技術移転が「第二次世界大戦」後の日本経済の復興および繁栄につながるものとして大きな意味をもっていることを評価したい。結局、「第二次世界大戦」前において行なわれた技術移転のハード面については、戦災によって破壊されたとしても、その技術移転にともなってえられたノウハウは、「第二次世界大戦」後の新たな技術移転の受容をきわめて容易なものにしたという意味を改めて指摘しておきたいのである。

 第II部「外資系の投資と企業史、1945-2018」では、日本経済の商業的な自由化・国際化・グローバル化の過程を通じて、世界銀行からの借入、自動車産業と外資チェーン店のフランチャイズ部門の発達、金融界ビッグバン改革などを検討する。それは、昭和28(1953)年10月における世界銀行の貸出の受容から平成8(1996)年11月のビッグバン改革が引き起こした外資導入にいたるまで、さまざまな形で導入された外資が日本資本主義の発展にとっていかなる意味を有するものであるかを個別に具体的な事例を通じて考察したのである。
 昭和20(1945)年9月2日の占領時代から現在にいたるまで、外国資本がどのような形で日本の商工業に影響を与えてきたのだろうか。とりわけ、現在の世界的な流行(ならびに金融・経済危機)である「新型コロナウイルス感染症(Corona Virus Pandemic – Covid-19)」に立ち向かうために、日本のビジネスと金融界がどのような方法で、国際化やグローバル化を成し遂げてきたのだろうか。批判的にいうならば、戦後史における日本の金融および商業への外資導入に関する私の研究は「自由化」、「国際化」、「グローバル化」という3つのキーワードが最も重要であろう。ただし、この研究においては、ただ単にこれらのキーワード間の関連性と妥当性についての議論をするつもりはない。むしろ、私は日本の金融および商業への外資導入のプロセスを調査しながら、その歴史的意味を把握していきたいのである。

 バブル経済の崩壊後、景気の失速と外国からの資本を導入することは、日本における規制緩和をもたらす結果となった。東京証券取引所の指向する新古典派的な「ビッグバン改革」は、日本経済において外国資本の存在を許す刺激となったことが証明された。日本経済全体には、外国資本の増加という点からも、市場は以前より国際的になったといわざるを得ないであろう。とくに、国際化の多くは、米国を起源としたものではあったが、日本のビジネス環境がアメリカ化し、元に戻らないほどの変化があったということを意味するわけではない。それにもかかわらず、シティバンク、メリルリンチ、またはルノーなどの活発な投資によって例証されたように、平成10(1998)年から平成20(2008)年までの10年間、外国資本による日本経済への貢献は、実に顕著かつ重要であったことを解明する。

 第III部「国家と企業:特殊会社の発達史、1880-2018」では、特殊会社の定義および区別とその「国策会社」として設立された際に与えられた義務と特権などの共通点を解明し、そして各々の特殊銀行および特殊会社の営業史を概観する。ここで忘れてならないのは、特殊銀行および特殊会社は21世紀の現在でも営業を続けていることである。一般的には知られていないが、明治中後期から令和初期の現在にいたるまで、特殊銀行および特殊会社は、日本経済にきわめて重要な役割を果たしているのである。そのさい、「外地」における特殊会社ネットワークは、台湾から樺太、朝鮮、南洋諸国、北・中支ととりわけ満洲の植民地へ、南満州鉄道株式会社や東洋拓殖株式会社だけではなく、台湾電力株式会社、樺太開発株式会社、朝鮮林業開発株式会社、南洋拓殖株式会社、北支那開発株式会社、中支那振興株式会社、満洲重工業開発株式会社などが設立される形をとったのである。また、「内地」における特殊会社は、東北振興電力株式会社、帝国燃料興業株式会社、日本通運株式会社、日本発送電株式会社、日本産金振興株式会社、日本米穀株式会社、国際電気通信株式会社、大日本航空株式会社などを挙げることができる。これらの特殊会社の払込資本は、特殊銀行および特殊金融機関である横浜正金銀行、日本銀行、日本勧業銀行、府県農工銀行、北海道拓殖銀行、日本興業銀行および大蔵省預金部などから調達されたが、それが内地における経済的な「開発振興」を引き起こすために、または外地における植民地経営のために資金調達がなされたことを改めて指摘しておきたい。つまり、帝国の資本輸出は、特殊銀行が国際および国内金融市場における債券発行によって獲得し、そのような金融回路を通じて本州から植民地へ振興のための資金となって投下されたのである。


 以上の事象についての研究を通じて、外資系の直接投資および合弁事業が、日本経済の成長および発展の基本的な要因となったことを明らかにしたい。また、一貫して開国から今日までの日本経済の理解を深めるにあたって、顕著な存在である特殊銀行および特殊会社に関する研究を提供しておくこととする。

 本書の内容をまとめて「むすびにかえて」の後、「あとがき:将来がある日本」においては、平成23(2011)年3月11日以降に発生した東北地方太平洋岸における災難およびこれに伴なう東京電力福島第一原子力発電所事故による災害への対応および日本を救うためにいかなる投資をなすことができるのかという課題を検討する。こうしたことから、21世紀において、日本経済が享受する成功のなかで、そのためにも新たな外国資本の導入が決定要因になると結論付けるのである。

著者

サイモン・J・バイスウェイ

出版社

刀水書房

ISBN

978-4-88708-452-0

出版された

2019

専門

社会科学

テーマ

社会
国家政治
歴史学
グローバリゼーション
経済学

地方

日本