韓国政治の転換点:「分断」と民主主義の政治力学

韓国政治の転換点:「分断」と民主主義の政治力学
本書は、韓国民主主義の阻害要因と見なされてきた「南北分断」と、その下で民主主義に向けての民衆からの持続的熱望との関係に注目しつつ、次の二点を明示化した。
第一には韓国の民主化を論ずるにおいて、従来の近代化理論、アクター中心論、歴史的制度論が取り扱ってきた「構造(南北分断、社会経済的要因)」と「アクター間の対抗関係」の上に、「構造に対するアクターの認識変化」を設定した。つまり、本書は言説分析を通して、支配勢力(軍部、政府、与党、財閥等)が「南北分断」状況を用いて自らの統治を正当化する過程と、「南北分断」に対する対抗勢力(野党、学生、労働者等)の認識変化過程を追跡し、従来とは異なる理論的枠組を提示した。
第二には、以上の理論的枠組に基づいて「なぜ1960年4・19革命以後の民主政府は、翌年5月16日の軍部クーデターを許容し、その後30年近くの軍部権威主義体制を存続させたか」、そして「なぜ87年民主化の争点は、社会経済的不平等問題の是正ではなく、もっぱら大統領直接選挙制に限られていたか」を分析した。この過程で本書は、韓国現代史を軍部権威主義体制の胎動期(1945~1961)、成立・安定期(1961~1971)、動揺期(1971~1980)、崩壊期(1980~1987)、及び「87年体制期」(1987~今日)という五つの時期区分が可能であるのを示した。その上に1980年代には人々の反共意識の弛緩が「南北分断」への問題提起の活発化をもたらし、「安全保障上の危機論」を掲げてきた軍部権威主義体制の正統性を揺るがしたことで、民主化が可能であったのを明らかにした。なお1980年代には学生や労働者による「社会経済的不平等問題の是正」要求が日の目を見ることなく鎮まってしまったが、これは再び支配勢力による「共産主義の脅威論及び安全保障上の危機論」に説得力を与えないための対抗勢力側の現実的選択であったのも明らかにした。
本書は以上の二点を通して、韓国民主主義は「南北分断」そのものではなく、「南北分断」に対するアクターの認識変化によって規定されてきたのを証明した。

著者

李正吉

出版社

国際書院

ISBN

978-4-87791-306-9

出版された

2020

専門

社会科学

テーマ

国際関係と政治学
言語学
人権
戦争 / 平和

地方

東アジア
韓国